小袖の歴史と趣味の部屋

小袖の歴史と趣味の部屋

小説「來物語」

鷽姫さまのサイトで、キリ番1000番ゲットで頂きました~!
もう、とても感激~!
來(ライ)としゃなえの前世をイメージした物語です!
まだまだ、続きます!さてどんな展開に!
とても楽しみです!

來物語


僕の名前は、來(ライ)。
ご覧の通りのもの。
え?なに?見えへんからわからへんって?
なんぎやな。僕、犬やねん。耳がピン、と立ってて、目はクリっとしているよ。
そして、小袖さんゆう、女の人に飼われているん。
こんな世の中やからな。僕が守ってあげんとあかんねん。

どんな世の中か、って?
なにゆうてんの、今は久寿元年でしょ。
今上の帝は近衛さま。新院さまと法皇さまもいてはって、なんやしらんややこしいことになってるやん。
ここだけの話、もういよいよ戦も近いんとちゃうかな、て僕は思うているよ。
せやのに小袖さんときたら、毎日のほほーんとしてはって、緊張感の「き」の字もあらへん。 こんなんで大丈夫かいな、って心配してあげてるねん。

でもな、小袖さんて、僕がゆうたら飼い主自慢になってしまうけど、なかなかええ女なんよ。
そいでもって、着物なんか縫うて、それを仕事にしてはるねん。
今は一人で、いや、僕と二人で住んでいるんやけど、実は最近ちょっと腹立つことあるねんか。

まだたまにやけど、夜になると男のやつ来おんねん。
来る日になったら、小袖さん朝からそわそわ、そわそわしはるしな、僕すぐにわかるねん。
時々僕のごはんかって忘れそうになるんやで。ひどいやろ?

でもほんまは、ごはんなんてどうでもええねん。
小袖さん、僕よりそいつのことの方が好きみたいなん。
これ、僕かなりショック受けてるよ。

でな、なぁなぁ、そいつってどんな男か知りたいやろ?
え、知りたない?!そんなん言わんと、ちょっと言わせてぇや。
顔がな、ちょっと僕に似てるねん。
あ、そんなして、笑う!ほんまなんやって。
目が大きくて黒くてクリっとしてて、どっちかいうと可愛い顔やねん。
僕なんかは、男として「可愛い」なんて言われるのほんまは嫌やねんけど。 まあ、小袖さんが言うんやったら許したろ、と思てるん。
そしたらな、腹立つんやで、そいつも僕が思てるのとおんなじこと、小袖さんに言いおるねん。
そんなこと、口に出して言うなっちゅうねん。ああ、恥ずかし!

僕最初の頃、そいつが来たらめっちゃ吠えたってんか。
正直に言うと、噛んだったこともあるねん。
これ、けっこう命がけやったで、いや、ほんまの話。
だってそいつ、刀差しとるんやもん。
背ぇも高いしな、なんていうか、強そう。
(まあ、僕ほどやないけどな。)
もう、ほんま腹立ってたし、夜中吠えまくったよ。

そやけど、最近は、吠えへん。
そいつが頭撫でに来ても、我慢して撫でさせてやってる。

なんでかと言うとな。

一回、そいつと小袖さんと三人で、川のほうへお散歩に行ったんや。
そしたらな、小袖さんてけっこうドンくさい所あるから、転んで川に落ちそうになってしまわはってん。

僕、慌てて、小袖さんのクッションになろうと思って走って行ったん。
でも、小袖さんは、僕の上には倒れはらへんかったん。

そいつがな、小袖さんのこと、
ひょい、って、
抱き上げおってん。

それな。

僕には、できひんねん。

僕、それ、ハンデよな。

でも、そいついたから、小袖さん、川に落ちんですんだん。

良かった、やん?

それから、僕そいつのこと吠えるのやめてん。


でも、まだまだ心を許したわけとちゃうで。
だいたい、そいつが何者か、僕、知らんもん。

今、世の中ほんま大変やねんで。
新院さま派と法皇・天皇さま派に分かれて、みんな睨み合っとるんや。
そいつがどっち派か、僕知らんし、どっちが優勢なんかも、ようわからん。

だってな、よう考えてみてよ。そいつのいる方が勝ったらいいけど、負けたら小袖さん、大変なことになるやんか。

そやから、僕、まだまだ、小袖さん守ろうと思てる。
そいつだけやったら心配やもんな。

僕、町でいっぱい、じょうほうしゅうしゅうして、これから世の中どうなるのか、ちゃんと見極めるつもりやよ。

僕のこの、湿った鼻にかけて言うけど、
ほんまに、戦は、近いよ。
キナ臭い匂いがプンプンしてる。

そやから、もう、ちょっと、小袖さんて!
僕のことも、ちゃんと見ててよ!





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